墓場でデート

幽霊話日月抄

プロローグ (一) 続き

 米山は続けた。
「どいつもこいつも科学のかの字もない詐欺師みたいなやつらだ。知ってるか?こいつらがテレビに出たがる理由を」
「さあ」
「今日集められた中でテレビによく出てる有名人は僕ぐらいだろ」
「はあ」
「当たり前だよ。名前の売れてる霊能者なんかをこの人数集めたらギャラが高くつく。まあ、名前が売れてたってインチキには違いないんだけどな」
「はあ」
「今回の番組企画ではどうやら人数が必要らしい。僕らのような代替のきかない科学者は一流を呼ぶしかないけど、霊能者なんかは三流をかき集めて安く済まそうって考えたんだろうな」
 中ほどにいたヘソ出し女が不機嫌な顔で振り向いた。米山の声がいつの間にか大きくなっていたらしい。
「教授。聞こえますよ」
 卓巳は冷や汗を掻いたが、米山は構わず続けた。
「こいつらはテレビにさえ出れば名前が売れると思ってるのさ。有名になればテレビの出演依頼が増えてギャラの金額も跳ね上がる。おまけに除霊なんかの仕事もじゃんじゃん来て、本でも出せば印税も入って、あっという間に高額納税者なんて短絡的な夢を思い描いているんだよ」
 突然、ホスト風の男が独り言のように口を開いた。
「いっしょうけんめい営業活動をしてるだけだってのに、なんで大学の先生に目の仇にされなきゃなんないのかねぇ」
「やめなよ、相手にするの」
 ヘソ出し女が止めた。
 米山は確実に聞こえる声で吐き捨てるように言った。
「あんな低俗な連中の思い通りにさせる必要なんかないさ。君もそう思うだろ」
 話を振られて卓巳は焦った。そうですねと言うわけにもいかない。
 バスの中に険悪なムードが漂い始めた頃、にわかに外が騒がしくなった。トンネルに入っていったタレント達に何かあったらしい。
「ちょっと待っててください」
 そう言ってバスに待機していたスタッフが出ていった。
 卓巳と米山は気になって、外の様子が見やすい前の方の席へ移動した。
 前方の中年女性と坊さんは険しい顔で窓の外を見つめていたが、中ほどの二人は興味がないのだろうか、外を見ようともせずにひそひそ話を続けていた。
 外では、ちょうどタレント達がトンネルから出てきたところだった。その中の女性タレントの一人が奇声をあげていて、必死に押さえている他のタレントやスタッフ達の手を振りほどこうと暴れている。比較的バスの近くにいたスタッフ達の言葉から、その女性タレントは何かに取り憑かれたらしいという事がわかった。
「あの女、大根女優のくせによくやるよ」
 米山が鼻で笑う。
「芝居ですか?」
「決まってるじゃないか」
 ところが中年女性と坊さんは急にすっくと立ち上がった。
「出番のようね」
「そうだな」
 そして自信満々にバスを降りていった。
「あーあ、待っててくれって言われたのに。目立ちたがりめ」
 米山は軽蔑の目で見送ったが、卓巳は気になってしかたがなかった。もしかしたら貴重な検証の機会かもしれない。
「ちょっと行ってみませんか、教授」
「何、君。あんな猿芝居に興味があるの?」
「芝居なら芝居で、どんなことするのか面白そうじゃないですか」
「ん、まあな。じゃ、ちょっと笑いにいってやるか」
 卓巳と米山はそろってバスを降りた。
 現場に行くと既に何かが始まっていた。中年女性は奇声を上げる女性タレントの背中を撫でたり叩いたりしながら、呪文のような言葉を繰り返している。坊さんはトンネルに向かって数珠を振りながらお経を唱え、たまに獣のように咆哮していた。卓巳も似たようなものをテレビで見たことはあるが、生で見るとかなりの迫力だったので思わずつぶやいた。
「大丈夫かいな」
「大丈夫ですよ」
 すぐ傍らで女の声がして卓巳はびくりとなった。声の主はバスにいたはずの女子学生だった。いつの間にか真横にいたが、意外と小柄で気付かなかった。撮影のライトがあるとはいえ、スタッフ達の外側にいる卓巳の周りはかなり暗い。そこへ静かに立たれたものだから心臓に悪い。
 卓巳は驚いた事を気付かれないよう、平静を装って訊いた。
「君、わかるの?」
 女子学生は暗い声でボソボソ答えた。
「あれは取り憑かれたわけじゃないです。ここが心霊スポットだという暗示と極度の緊張のせいで精神に変調をきたしただけです」
 卓巳はおやっと思った。この少女は霊能者じゃなくて科学者側の人間なのだろうか。
 背丈や体つきからは中学生にしか見えないが、その割には難しい言葉使いで難しい事を言う。いかにも利発そうだ。
 米山もこの少女に対して卓巳と同じ様な事を感じたらしい。煙草に火をつけながら言った。
「お嬢ちゃん、いい分析するね。僕もその可能性はあると思うよ」
 でも、もし精神に変調をきたしたと言うのなら、あのタレントには後遺症か何かが残るんじゃないだろうか。卓巳のその心配を見透かしたように女子学生は言った。
「興味本位で心霊スポットに来ちゃダメです。暗示にかかっておかしくなる人、多いみたいです。でも暗示にかかりやすいっていうことは、あの女の人、霊能者に助けてもらってるっていう暗示にもかかりやすいってことです。だから大丈夫です、多分」
 女子学生の言うとおり、しばらくすると女性タレントは落ち着きを取り戻し、あたかも中年女性が霊を祓ったかのように見えた。
「これでいい画が撮れてディレクターは万々歳ってわけだ。ばかばかしい」
 捨てゼリフを吐くと、米山は投げ落とした煙草を靴で踏み消して、一人でバスへ帰っていった。
 卓巳は正直がっかりしていた。
「ここに霊はいなかったのかな」
「いますよ。少しは」
 暗がりの中、女子学生の前髪に隠された目は全く見えなかったが、その下方に覗いている口元が微かに笑ったように見え、卓巳は背筋に寒気を感じた。
「いるの?」
「心霊スポットなんていうような邪悪な感じはしませんけど」
「いるから心霊スポットなんでしょ」
「さあ。ただ、霊なんてここに限らずその辺に普通にいますから」
 女子学生は世間話でもしているように淡々と言う。大人として、科学者として、ここでうろたえたりしたら恥ずかしい。
「はははっ、じゃあウチにもいるかもね」
「ウチどころか、あなたにずっとついてますよ」
「えっ?」
 卓巳は思わず見回した。だが見えるわけがない。
 ふと視線を女子学生に戻すと、彼女はしゃがんで米山の捨てた吸殻を拾っていた。そしてしゃがんだまま、卓巳の腰の横あたりの何も無い空間に向かって小さく手を振った。そのあと卓巳の不安に気付いたのだろうか、女子学生は卓巳の顔を見上げて言った。
「大丈夫。とっても無邪気な男の子ですから」





テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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