墓場でデート

幽霊話日月抄

二夜目 もうひとりの自分 (一)

 職員室を出てすぐに、いきなり卓巳は袖を引っ張られた。引っ張ったのは地学の教師の岩崎亜矢子だった。
「平原先生。さっき八木先生に聞いたんですけど、明日は出るんだそうですね」
 岩崎が言っているのは明日、土曜日の夜に予定されている新任者歓迎会の事である。
「ええ、そのつもりですけど」
「平原先生がこういうのに出るのって、久しぶりですよね」
「そうですね。去年の僕らの歓迎会以来です」
 去年は卓巳も岩崎も新任者で、歓迎を受ける側だった。それには卓巳ももちろん礼儀として参加したが、その後は忘年会や新年会のような全体の集まりでも適当な理由を付けては出席を断ってきた。けれども今回は断りきれなかった。誘い方が好意的だったからだ。
 成海大学での殺人死体遺棄事件で重要参考人として警察に連れていかれ、そのあと疑いが晴れてからというもの、鎌ヶ井高校の教師の中には卓巳に好意的に話しかけてくる者が増えた。冤罪で捕まった事がよっぽど面白かったのか、たいていはその話題で話しかけてくる。そればかりだとウンザリもするのだが、敬遠されるのよりはずっとましだった。
 岩崎も最近話しかけてくるようになった一人だ。
「平原先生が出るんなら、わたしも参加しようかな」
「どうしてですか?」
「わたしも去年来たばかりの頃に二回ぐらい参加しただけで、こういうの全く参加してないんです。でも平原先生が参加するなら、いいきっかけかと思いまして」
 何がいいきっかけなのか全く理解できなかったが、卓巳はなんと答えたらいいのかわからず、興味の無いのも手伝って適当に答えた。
「それは楽しみですね」
「えっ?楽しみですか?」
「ええ、まあ」
 岩崎は卓巳の袖を掴んだまま、ぐっと身を寄せてきた。
「ぜったい出ます。約束します」
「そ、そうですか」
 卓巳は少し身を引いた。岩崎の豊かな胸が腕に当たっていたからだ。
 岩崎は卓巳の右手を両手でしっかり握ると、明るく微笑んだ。
「明日は楽しみましょうねっ」
 そう言うと、岩崎は小走りに職員室へ戻っていった。
 卓巳は呆気にとられて見送ったが、少し首をかしげてから物理準備室へ向かった。




テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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