舞はその夜、姉のパソコンを借りて被害者のブログを初めから丹念に読んでいた。
昼間、警察署へ行った沙織と裕香と舞の三人は案の定、門前払いを食った。それですごすごと帰ったのだが、舞は帰ってから姉に少し詳しい話を聞くことができた。
大学では警察が捜査に入った関係で、ある程度の情報が流れていた。それを姉が、舞が気にしているだろうと収集してきてくれていたのだ。もちろん被害者のブログのことも伝わってきていた。
ブログは主に彼女の恋の対象である「T・Hセンセ」の事について書いてあった。
入学したばかりの頃、地方から来てまだ友達も少なかった時期に、中庭の桜の木の下でお花見がてら弁当を食べていたら、T・Hセンセに優しく声をかけられて一緒に弁当を食べた事。それがきっかけで好きになった事。それからというもの様々なアプローチを繰り返したが、振り向いてもらえなかった事。大学2年の秋にT・Hセンセに恋人がいるらしいと噂で聞いた事。
「恋・・・人?」
卓巳には恋人がいそうな気配は全く無いし、それは信憑性は別としても沙織の保証付きだ。けれども五年前といえば卓巳は二十七歳ぐらいである。健康な男なら恋人くらいいても不思議じゃない。
「えーと、えーと・・・」
読み進むと、彼女はT・Hセンセの恋人を突き止めていた。成海大学駅からふたつ隣にある八実駅の北口を降りて少し歩いた所に、「マジックニードル」という小さな手芸店がある。そこの経営者が恋人らしい。
「えっ」
八実駅といえばここだ。その駅の南口から徒歩十分程の所に姉が部屋を借りている、今は舞も居候しているマンションがある。
舞は読み進めた。
彼女は、そのマジックニードルへ出向いている。そして恋人だという店主に事実かどうかを問いただしている。店主はT・Hセンセとの関係をあっさり認めたらしい。
ところがおかしなのは、その先だった。なぜか彼女は店主と仲良くなり、恋のアドバイスを受けている。彼女の文章からは詳しいいきさつがわからなかったが、その後もあまり日を置かずに二度もマジックニードルを訪れている。
そのマジックニードルを最後に訪れた日から一週間後の十月五日のブログに、彼女はついにT・Hセンセからのお誘いの手紙をこの日もらった事を書いている。翌日の夜に、特定されてはいないがおそらく中庭のだろう「キャンパス内の桜の木の下」で待ち合わせをしている事。どきどきわくわくしている事。何が起きても受け入れる覚悟がある事。気合たっぷりに準備をしていくつもりな事。テンションが上がりまくっていて今夜は眠れそうにない事などを、いつも以上に長々と書いている。けれども、その日のブログが最後だった。以後は全く書き込まれていない。そして、その日が彼女が行方不明になった時期とほぼ一致している。警察がT・Hセンセを疑うのは当然だろう。
「これ、先生じゃない」
彼女が物理学部だったとしても、イニシャルがT・Hのセンセだったとしても、卓巳とは限らない。成海大学には他にT・Hセンセがいる、と舞は確信した。



