墓場でデート

幽霊話日月抄

一夜目 桜の木の下で (六)

 警察署の取調室では、卓巳は完全に犯人扱いだった。
「いいかげんに喋っちゃいなよ。幽霊がいたから掘ったなんて、物理の先生にしちゃ非科学的すぎるだろ」
「本当なんだからしょうがないじゃないですか」
 卓巳はふてくされていた。霊に比べたら刑事なんて怖くもなんともない。その態度が気に入らないのか、刑事は必要以上に凄んでみせる。
「もし本当なんだとしたら、お前の罪悪感が見せた幻なんだよ。埋めた本人じゃなきゃ、あんな的確に掘り起こせねえだろうがよ」
「だから地面が盛り上がってたんですってば」
「理屈のわかんねえ物理先生だな。キャンパス内には何本も桜があるんだよ。市内にはもっともっともっとある。桜の下にこだわらず死体が埋めてありそうな場所って言ったら無限だよ。それなのにお前はあの!桜の木の下を『死体を掘り起こすため』に掘ったんだ。そのこと自体が示してるんだよ。お前が埋めた張本人だってな」
 それでも卓巳はうろたえはしなかった。
「そんな理屈で起訴できると思ってるんですか?」
「おっ、開き直りかよ。証拠が無いと思ってるのか?言っておくが、さっき見せたブログは充分証拠になるんだぞ」
 白骨死体の被害者は、一緒に埋まっていた遺留品から、五年程前に行方不明になっていた物理学部の女子学生だと判明した。当時は地方から出てきた学生が男とでもどこかへ消えたのだろう程度にしか思われていなかったため、田舎の両親の必死の訴えにも関わらず、あまり捜されることはなかった。今回、死体として発見されて、警察も初めて詳しく調べた。そして当時の彼女の友人から、彼女が平原卓巳に恋をしていた事、そして卓巳へのアプローチの様子をブログにしていた事がわかった。ブログは五年たった今でも、そのまま残っていた。
「そんなブログじゃ状況証拠にしかならないですよね」
「状況証拠も立派な証拠なんだよ」
「じゃあ、僕の自白なんかいらないでしょ」
「このやろ。言っとくが、あのブログのT・Hセンセってのがお前だってのはわかってるんだよ。黙ってれば黙ってるほど、お前の立場を悪くするだけだぞ」
 刑事はあからさまに焦れていた。その様子を見て、卓巳は不敵に笑った。
「じゃあ話しますよ。五年前の話をすればいいんですよね」
「ほんとか?」
 刑事の表情が少し緩んだ。卓巳はそれを確認してから、芝居っ気たっぷりに感情をこめて話しだした。
「五年前ですよね。当時の僕はちょっと天狗になってましたかね。今ほど謙虚さも無くて横柄だったかもしれません」
「今も充分、横柄じゃねえか」
「なにしろ書いた論文も話題になってたし、准教授にもなったばかりでしたから」
「俺のツッコミは無視かよ」
「女子学生にもかなりモテました。バレンタインデーのチョコなんて、売れるほどもらったし。食べきるまでに何回鼻血が出そうになったか」
「律儀に全部食ったのか」
「何人もの女の子たちが手変え品変え誘ってくる。そんなにモテる自分が逆に怖くなりましたよ」
「なんだか腹の立つ話だな」
「まあ、その気になれば入れ食い状態だったでしょうね」
 刑事は卓巳を睨みつけた。
「その中に被害者がいたってわけだ」
「その気になればって言ったでしょ。どんなに誘われようが、ただの一人も手を出してませんよ」
「うそつけ。まさか倫理観が学生に手を出す事を許さなかっただとか、学生を女として見ることができないだとか、そんな見え透いた事を言うんじゃないだろうな」
「言いませんよ。じっさい学生達も段々にエスカレートしていって、かなりきわどい誘い方とかエロチックな誘い方とかされて、何回鼻血が出そうになったか」
「鼻血が出やすいんだな、お前」
 卓巳は身体を乗り出して刑事の目を真剣に見つめた。
「でもね。僕はね、刑事さん。僕の評判とか地位とか立場とかに惹かれて寄ってくる女性とは関係を持ちたくないんですよ。あとで本当の僕を知ると、勝手に作り上げたイメージとの違いが大きいからって、必ずひどい事を言うに決まってる。僕にはわかってるんですよ」
「そんなの手を出さない理由になんないだろ。遊んで捨てるつもりなら、何か言われるのなんか、はなから覚悟してるだろうしな」
「これだから『陽』の人間は嫌なんだ」
「なんだよ。『陽』の人間て」
「刑事さんにはわからないかもしれませんが、ひどいこと言われると傷つくんですよ、思いっきり」
「そんな繊細には見えねえけどな」
「そんな訳で誰ひとり手は出してません。それに寄ってくる女子学生が多すぎて被害者の事も覚えてません」
 卓巳は目の前に置かれていた被害者の写真を刑事に突っ返した。刑事は写真を取って眺めながら言った。
「こんな大人っぽくて色っぽい美人を忘れるなんて、信憑性がないだろ。この女だけ特別に手を出そうと思ったんじゃねえのか?」
「そりゃ刑事さんの趣味でしょ。興味ありませんね、僕は」
「うそつくんじゃねえよ。ブログにはお前に誘われたって書いてあんだよ。興味ないのに誘うわけねーだろ、バカ」
 卓巳は立ち上がった。
「いま、バカって言いましたね!」
「言ったがどうした」
「警察のくせに、暴言じゃないですか!」
「俺にとっちゃ日常会話なんだよ」
「冗談じゃない。言わせてもらいますけどね」
「なんだ」
「バカって言ったほうがバカなんですからね!」
「・・・・・・ほんとに学校の先生?」
 卓巳は立ったまま力強くうなずいた。




テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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